8日
池袋の寂れた裏通り、戦後すぐから続いている酒場で2人のおじさんが作戦会議。会話はどうも作戦とは関係ないのが多い。「ホッピーに鳥モツの煮込み、それからハムカツに烏賊刺し」などと叫ぶ。
向かい合わせのカウンターしかない酒場はおじさんしかいない。単独が圧倒的に多い。人生の悲しみや苦しみを背負った人たちの港なのかもしれない。
時間になり、Nさんと合流。ここでHが「財布がない」と叫び酒場を2往復する。実は新しいザックのポケットに入れて忘れていたのだ。このザックはポケットがたくさんついていて単細胞のHでは使いこなせないのかもしれない。
ドコダドコダといっているうちに新しいポケットを2ヶ所も発見してしまった。ともあれ無事にバスに乗ることができた。
9日
つぶ沼までタクシーで入る。なんとNさんは料金を値切り、チップまで貰ってしまったのだ。
ギンリョウソウの咲く暗い広葉樹林の中を緩やかに登っていく。しばらく行ったところで左側の斜面でガサガサ音がする、「熊だーっ」。熊が斜面を駆け下りていく。まだ小熊のようだ。
しかし小熊がいるということは、おっかぁー熊がいるはずだ。どこの世界でもおっかぁーは恐ろしいのである。Nさんが笛を取り出し「こっちにきてはダメですよ」と、ピューピューと吹く。
しばらく登り、金山沢を渡ると尾根道となる。マイズルソウやシラネアオイ、ハクサンチドリなどの花もちらほら出てくる。Mさんは相変わらすペースが速い。Hが歩幅制限式歩行速度調節器(ただのヒモ)及び負荷式スピードコントロールユニット(ただの石)の装着を提案するが冷ややかな笑いで拒絶されてしまう。
うーむ、今夜の「まあまあまあ作戦」に賭けるしかないようだ。「まあまあまあ、ぐぅーっと」と油断を見透かし、過剰アルコール摂取翌日酩酊症候群に陥らせる作戦である。などと、妄想をいだきつつも順調に高度を上げる。
ミツガシワ、リューキンカ、イワイチョウ、シナノキンバイなどが眼を楽しませてくれる。雪渓や湿地帯をいくつか過ぎると銀明水につく。
中沼から登ってくるパーティーが多く銀明水は大賑わいである。しばらく登ると樹木も低くなり、姥石平へと続く。ゴバイケイソウやヒオウギアヤメ、ウサギギクなどが出てくる。
姥石平は湿地帯となっており、オノエラン、ヒナザクラなど可憐な花が私たちをむかえてくれる。天気も回復してきて焼石岳山頂が望める。Mさんはもうとっくに頂上に向かっているのでゆっくりはしていられない。
山頂で簡単な昼食の後、神社跡経由で東焼石岳に向かう。山頂付近にムシトリスミレ、チシマギキョウが咲いていた。このころからガスが濃くなり、雨も落ちてくるようになる。
岩手山岳協会の24人大パーティーに追いついてしまう。「どうぞどうぞ」との言葉に甘え、先に行かせてもらう。尾根からはずれ木道を過ぎるとひょっこり金明水避難小屋に出た。この小屋は新しくてリッパ。快適に一夜を過ごさせていただく。
10日
夜半から雨、風とも強くなる。24人大パーティーの出た後、ゆっくり朝食を取って出発。
出だしから流水の中を歩くようになる。Hはやけくそになり、ジャブジャブ水の中を歩く。尾根に出て小さなピークを越えると経塚山の登りになる。この付近にはギョウジャニンニクがたくさんある。花茎をかじってみるとまさにニンニクである。
経塚山の斜面にはフウロの群落がある。何フウロだかわからない。経塚山で小休止、あとは下りのみのはずだ。約2時間でトラス橋に出る。ここから夏油温泉まで林道を行く。今日は温泉泊まりなのだ。
夕食の後、4つの露天風呂に挑戦したがNさんとHは、大湯に敗北してしまった。(熱いのなんのって尋常じゃない)と、穏やかな心を回復できたとてもいい山行であった。 |